最近、オンラインソフト開発者の間で話題になっている株式会社ソフトニックに訪問しまして、ご見解を伺って参りました。
この記事は、本来はもっと前に公開する予定でしたが、公開直前に地震発生し、それどころではなくなってしまったため、公開を見送っておりました。
ですがせっかく、先方にも御協力いただいて行った取材でありますし、いつまでも停滞ムードを漂わせているわけにもいきません。まだまだな時期かもしれないと思いつつも、意を決して公開をすることにしました。
地震直前までの時期、ソフトウェア開発者のブログや、その他様々な記事を見ておりますと、ソフトニックダウンローダーと呼ばれるプログラムの不可解な動作やそこからくる悪印象から、極めて悪い印象の文章がたくさん存在しておりました。
ただ、それらを見ていても、ソフトニックダウンローダーと呼ばれるプログラムが本来どんな意図で作られたものなのか、ということが見えてきませんでした。そりゃそうです。当事者のソフトニック自信が、あまり情報公開を行ってきていなかったわけですから。
ただ、こういうプログラムも人間が作ったものですし、世界的に見れば大きな企業が作ったプログラムなわけですから、何か悪意以外の、きちんとした意志と目的があった作られたものではないのか? という考えがありました。そのため、私はソフトニック者に直接訪問し、このプログラムがどういうものなのか、どういった意図を持って作られたのか、どうして情報公開が遅れたのかなどを聞くことにしました。私は以前、同梱ソフトの配布側に立っていた時期がありますから、こういったことを、配布側の立場からインタビューしやすい立ち位置にいると思ったからです。そのため、この記事はソフトニック社の側に立った文章となっておりますことをあらかじめ申し上げておきます。
取材を通してわかったことは、やはり、ソフトニックダウンローダーにはきちんとした目的が存在していたこと、それから、この方法が(世界的に見てあたりまえということから)日本でも当たり前と思い込み、情報公開が必要とすら思っていなかったことなど、新しいことがわかりました。
これを見る読者の方は、とりあえずいったん悪い思い込みを捨て、実際どうだったのかを冷静に判断した上で、再度、悪い思い込みを評価してみて、選択をしてみると良いと思います。
「ソフトニック」という会社、みなさんはご存じでしょうか?
今、この社名は、ユーザーの皆さんよりは、私と同じようなオンラインソフト開発者の間で、ある意味話題になっているかもしれません。
ダウンロードサイトとしては世界最王手であり、海外で活躍していたサイトで、日本進出時にはこういう記事も出たりして、まさに「黒船がやってきた」的なムードでした。
しかしながら、2011年の2月初め頃、Twitter上のタイムラインを見ていると、どうも良くない情報が目に飛び込んできました。
注目したタイムライン上のツイート(つぶやき)には、かなり感情的なものや過激なものが多かったので、それらをここで直接書くわけにはいきません。ただ、問題点については、おおまかには窓の杜の3月2日の記事にまとめられているので、知らない方はこちらをご参照下さい。
この記事で、この問題を知った、という方もいらっしゃったかもしれませんね。
ちなみにINASOFTでは、多くのソフトウェアについて、ライセンス規定で「自由配布」を認めています。
(無断で配布しても構わないし、極端な例を挙げれば有料で配布しても構わない。規定の範囲内なら多少の改変も認められる)
このため、この問題については、特に重要視する必要はないと考えていました。
どのダウンロードサイトから(あるいはどの雑誌から)ソフトウェアを入手しようとするかは、ユーザーの自由な判断によるものだからです。
しかし、ダウンローダーとか、特にツールバーとかいったものについては、強い拒否感を持っているユーザーさんが多いことも私は実感として知っています。
そこで、こういったものを配布する場合、配布者側にそれなりに理由があると思うわけで、上記窓の杜の記事の中で、ソフトニック社の、ダウンローダーに関する公式見解が聞けるのではないか、と期待しておりました。
しかし残念ながら、『ソフトウェアのダウンロード・サービスというビジネスにおいて競業関係にある』という理由で、窓の杜はソフトニック社からコメントを得ることができなかったと書かれており、この点について、大変気がかりでした。
そこで思ったのは、『自分の立場ならば、ソフトニック社と競合関係にあるわけではないし、ダウンローダーに関する見解について聞くことができるのではないか?』というものです。
早速、ソフトニックに見解についての問合せをしたところ、ソフトニック社の内田社長から「直接お話をしたい」という連絡がありました。「それならば取材という形にしましょう」と提案し、当サイトで記事にする了承も得られましたので、先日、ソフトニック社の社長さんのところへお話を聞きに行きました。
株式会社ソフトニックは、渋谷のセルリアンタワー内にあります。
Googleが日本進出時に利用していたフロアです。最近の東京の中心部の最先端ビルの入館の仕組みってすごいんですね。なんか色々最先端になっていて、とりあえず入り口でビックリしてしまいました。
まぁそれはさておき、ソフトニック社のオフィスに無事にたどり着くことができました。
気になっていたことを3点にまとめて、質問してみました。
ご注意:いただいた回答はソフトニック社の見解であって、私自身の意見ではありません。ソフトニック社の見解を、私が話を聞いて自分なりに理解して、掲載したものです。また、ソフトニック社の発言を一字一句違わず書いているのではありませんから、多少の誤解は含まれているかもしれません。また、私自身の観点や意見とか、一般的なソフトウェア開発者の観点・意見からは離れているものもあるかもしれません。これらについては、誤解の無いよう、あらかじめお断りしておきます。 |
【ソフトニック社の回答】
まず、大前提としてソフトニックは『ユーザーのための』サービスを提供しています。
このため、ソフトニックダウンローダーは、ユーザーのため―――特に初心者(あなたの両親を想像すると良いかもしれない)のためのサービスです。
Vectorさんや窓の杜さんなどの同業他社と異なる利点として、ソフトニックダウンローダーを経由してソフトウェアを入手してインストールすることで、ユーザーの手元でたくさんのバージョンのファイルで溢れかえったり、あるいは最新版のファイルを探してユーザーが戸惑うことを防ぐことができます。
また、ソフトニックダウンローダーを利用することで、ユーザーにマルチスレッド技術を利用した高速なダウンロードを提供できます。ダウンロードの際は、複数のウイルス対策エンジンを用いて安全性のチェックを提供します。
さらにリンク切れを防ぐこともできます。ソフトウェアは原則として開発者サイトからダウンロードされますが、リンク切れや、最新版がウイルスで侵されたなどで提供できない場合、ソフトニックにてバックアップした旧ファイルを提供することができます。これは、GoogleによるWebサイトの「キャッシュ」を想像するとわかりやすいかもしれません。
【ソフトニック社の回答】
ユーザーへ優れたファイルを提供しつづけることは、結果的に開発者への利点にもなると考えます。
また、キャッシュの存在によって、ユーザーに取ってだけでなく開発者にとっても、機会損失を防ぐ役割があると思います。
【私の感想】
他開発者のブログや、窓の杜の記事を通じて、ソフトニックダウンローダーの「動作」について知ってはおりましたが、これまでよくわからなかった、ソフトニックダウンローダーの存在意義について、聞くことができました。
ダウンローダーアイコンのダブルクリックで常に最新版が手に入り、安全性のチェックが行われるなど、利点については理解することができました。
ただ、他サイトで既報だとは思いますが、常に最新版が手に入るのかどうかは、ソフトニック社のスタッフの手動クロールタイミングに寄ってしまいます。開発者のサイトの最新版のファイル名が、常に同じファイル名になっているわけではありません。旧ファイル名を探しに来たダウンローダーは開発者サイトがダウンしていると勘違いし、強制的に(キャッシュ内の)過去の版が配布されることになってしまう等の欠点も内包していることがわかります。
この点については、ソフトニックダウンローダーの機能が「意図とは異なる動作」になってしまうことになります。気になる開発者の方は、ソフトニック社に要望(アップデートの連絡をしたり、ダウンローダーによるダウンロードを希望しない旨連絡する等)を出す必要があるでしょう。
なお、ソフトニック社では、最新版に対して、動作確認を行っています。開発者が最新版を公開してから、最新版への差し替えが起こるまでしばらく時間がかかりますが、見方を変えれば、ユーザー向けに公開しているバージョンは、ソフトニック社の確認した安定版であるとも言えるかと思います。
また、この問題は、ソフトニック以外の一般的な転載サイトについても言えることです。(転載サイトが旧バージョンを配布し続ければ、ユーザーは勘違いしてそれをダウンロードしてしまうかもしれない)
ところで、開発者によっては「自サイト内のHTML以外からリンクされ、直接ダウンロードされる」(いわゆる直リンク行為)自体を禁じたいと思う人もいるかと思います。これもまた、気になる開発者の方は、ソフトニック社に要望(ダウンローダーによるダウンロードを希望しない旨連絡する等)を出す必要があるでしょう。
「ツールバーによる収益という概念」については、こと日本国内においてはその文化が受け入れられていない感があります。私も実感としてそれを知っています。開発者にとってもユーザーにとっても、これが「汚いやり方」に映ってしまうことは多いでしょう。(ただし、ダウンローダー利用時に、ツールバーの導入を拒否するオプションも存在します)
ただし、一般的な転載サイトにおいても、他の何らかの方法で収益を得ていると言えます。例えばダウンロード画面に遷移する前に巨大な広告を出したり、「お勧めソフト」のダウンロードボタンを表示したり。他にも、収益率の高い美少女ゲームのダウンロードリンクを表示する例もあります。
日本では広告表示については比較的受け入れられている土壌があり、これらには反発を感じない開発者やユーザーは多いかもしれません。しかし、これは時代と共に変化していくものであるとも言えるかもしれません。
私としては、これについては何とも言えません。各個人の価値観です。ユーザーはこの点を考慮して、どの方法による入手方法が最適か、自ら判断する必要があると言えそうです。
【ソフトニック社の回答】
ソフトニックダウンローダーによるダウンロードは、いわゆる改変やバンドル(同梱)といった行為と異なります。
これは、「ダウンロードの方法を提供」するものであるため、開発者への事前の周知が必要とは考えていませんでした。
また、「ダウンローダーの提供を介したダウンロード」という方法は、世界的にはよく行われることであり(Adobeダウンローダはその一例)、日本進出までに問題とはならなかったこともあり、このように考えていました。
この点については申し訳なく思っています。
【ソフトニック社の回答】
開発者の皆さんが不安に思っていることは理解できたので、周知を始めています。
例えばこれまで、ソフトニックダウンローダーの動作や説明については、スペイン本社の紹介文の日本語版を掲載しているのみでしたが、今は日本人向けにわかりやすくした説明ものに変更しています。
【私の感想】
ソフトニックダウンローダーについて、なぜ開発者に対して未周知となっていたのかを聞くことができました。
私自身、ソフト(すっきり!! デフラグ)収録に関するお話はいただいておりましたが、このようなダウンローダーを介した方法によるものであるというお話はいただいておりませんでした。
(海外は知りませんが)日本ではブラウザによる直ダウンロードが一般的であり、日本人にとっては、ダウンローダーを介するダウンロードというのは異質なものに映るのです。
基本的には「開発者」視点が欠けており、ダウンローダーのような、ある種ブラックボックス的な動きをするものを中間に挟んだ場合に、「開発者」がどのように感じるか、理解が欠けていたのではないでしょうか。
また、例えば次のような事例があったようです。
ユーザーが目的のソフトを探していて、ソフトニック社のサイトにたどり着きました。そこでダウンロード・インストールしたはいいものの、いつもの調子で「次へ」「次へ」と押していくうちに、気づくとIEのツールバーが増えてホームページが変更されてしまいました。
ユーザーにとって、この現象が起きる前後にしたことと言えば、目的ソフトのインストールだったはず。……ということで、その苦情を開発者に送ってしまった、というものです。
しかし開発者にとっては、ツールバーについてもホームページ設定の変更も寝耳に水です。
調べてみると、どうやらある会社が自作ソフトのダウンロードと一緒に、なにやらツールバーを抱き合わせてダウンロードさせ、収益を上げているらしい。開発者とユーザーを困らせて、一人で収益を上げているとは何事だ!
……とまぁ、何も知らないユーザーと開発者は、このような結論にたどり着きます。これでは「フリーライド」(ただ乗り)と思われてしまっても仕方がありません。
もちろん、雑誌収録や転載サイトも、無料ソフトの転載により間接的に収益を得ており、「フリーライドではない」と言い切れるわけではありませんが、開発者とユーザーの感じる不信感の量は、ツールバーやIEホームページ変更のそれよりは少ないでしょう。
こういったことから、ダウンローダーが開発者に未周知であったこと(ユーザーにとっても未周知だったこと)は、間違いであったと言えます。今後、ソフトニック社がわかりやすく情報提供することに期待したいと思います。
また、今回は意見を収集できておりませんが、ユーザーにとって「ダウンローダーによるダウンロード」とは、どのように映るものなのでしょうか?
これは、多くのユーザーからの意見を聞いてみたいところです。
【ソフトニック社の回答】
ソフトニックダウンローダーによるダウンロードについて、ソフトウェアの改変を行っているのではないかという疑惑がありますが、ファイルのサイズ等を見ていただければわかるとおり、改変は一切行っていません。
無断配布については、基本的に弊社としては無断配布をしているつもりはありません。
各ソフトウェアについて、ホームページ・ブログ・readme・インストーラ中のテキストなど、様々な文章を読んで調べ、転載の許可の必要性やタイミング(事前報告、事後報告など)を調べ、対応しています。
しかしながら、開発者によって、どこに転載の許可の必要性やタイミングについて書かれているのか異なっています。もしかしたら見間違えや作業ミスもあったかもしれません。
あるいは、メールを出したにもかかわらず、読んでいただけないとか、迷惑メールボックスに入れられてしまったりとか、そもそも届いていないとかいった状況は起こりうるかもしれません。
そういった場合、弊社への返信が来ないことになりますから、できるかぎり再連絡をしています。
ただやはり、人間の行うことなので、間違いはあるかもしれません。そういった場合に、無断転載の状態になってしまうこともあるかもしれません。
無断転載の状態になってしまっているとしたら、大変申し訳ないことだと思います。
この場合、気づいたらご連絡いただき、転載を継続するか、あるいは取りやめるか等、ご判断をいただければと思います。
また、ソフトニックダウンローダーのためのキャッシュを指して無断転載と言われているケースもあると思います。キャッシュの必要性と利点は前に述べたとおりですが、もし、開発者の方から要望があれば、すぐに(一両日中に)対処いたしますのでご連絡下さい。
【私の感想】
改変疑惑については、私自身も直接調査していますが、特に改変に該当する行為は見受けられませんでした。これについては、何か誤解があったものと思われます。
ただ、ダウンローダーの一連の動作を持ってして「改変」と言っているケースもあり、人によって何が「改変」で何が「改変でない」のか。解釈の分かれるところもあるかもしれません。
この場合についても、見解の統一を図るために、心配な方は問合せをする必要があるかと思います。
無断転載について。私自身は事前に知らせを受けていましたが、たしかに何人かの開発者さんで事前に連絡を受けていないというケースはあったようです。
こういったケースがどれくらいの割合で存在しているのか、わかりません。ソフトニック社自身でも作業のミスが原因と言うことであれば、正確な数を把握することは難しいでしょう。
やはり気づいた開発者が問合せをしていくしかないかと思われます。
これでだいたい、私が疑問に思っていた事柄については確認できました。御協力下さったソフトニックの社員の皆さん、社長の内田さんには感謝致します。
帰宅後、これをどのように記事にしようか、非常に悩みました。
ソフトニック社の考え方をそのまま伝えるだけでは、ただの広報になってしまいます。すでに感情を高ぶらせている開発者やユーザーの皆さんに受け入れられるものにはならないでしょう。かといって、ソフトニック批判を展開してしまうのでは、他ブログやこれまでのまとめサイトと同じになってしまって、何の進展もありません。私が得た情報を効果的にみなさんに知ってもらうこともできません。そこで、開発者側の視点で、今回の件がどのように映ったか、現状と対策を併記することとしました。
これによって、開発者やユーザーが、ダウンロードサイトを選ぶ際の手助けになれば幸いです。
さらに1点ほど、追加で述べたいことがあります。もう少しだけおつきあい下さい。
ソフトニック社がユーザー向けに提供している情報の代表的なものとして、社員の顔写真付きでのレビューと評価があります。
これにより、ユーザーはソフトウェア選択をする判断をしやすくなります。ただ、(これは私が開発者の視点であるから言ってしまうことかもしれませんが)レビューをされることでモチベーションを下げてしまう開発者もいるのではないだろうか、と思ってしまうのです。
開発者からすれば、気軽な気持ちで、日曜大工的な感覚で製作し、そのままにしておくのもなんだし一般公開を試みたものの、そんな作品がボツだの評価1だのと勝手に言われてしまうのは気持ちの良いものではありません。(これは開発者視点です。ユーザーの方は気にしなくても構いません)
また、気になったのは紹介文についても。
Twitter専用クライアントソフトであるところの、このソフトをさして「Twitter以外に投稿できないのが欠点だ」とは、一体どういう評価なのでしょうか?
ユーザーへの情報提供として一番力を入れているはずのレビュー記事において、こういった適当なことが書かれているとなれば、ちょっと残念なことではないでしょうか。
おそらく、どんなソフトでも1点以上は長所と短所を述べなければならないルールでもあるのかもしれませんが、もう少し、筋の通ったレビュー(Twitter専用クライアントソフトをレビューするならば、他のTwitter専用クライアントと比較した上での欠点を述べるなど)を書いていただきたいと思います。